「MRIを撮ったけど異常なしと言われた」「病院でヘルニアと診断されたが、手術するほどでもないと言われた」——慢性腰痛を抱える方から、こういう話をよく聞きます。腰痛の約85%は、画像に映りません。では、何が起きているのでしょうか。

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腰痛を起こしているのは、どの筋肉か

慢性腰痛の多くは、多裂筋(たれつきん)という筋肉の機能不全が原因です。脊椎の両側に沿って走る深部の筋肉で、椎骨を「1個ずつ」安定させる役割を持っています。

表層にある脊柱起立筋や広背筋のように大きく動く筋肉ではなく、姿勢を保つための持続的な低出力の収縮を担う「縁の下の力持ち」です。ここが弱ると、腰椎がぐらつき、周囲の筋肉が代わりに過緊張します。それが慢性的な痛みとなります。

腰椎後面から見た多裂筋の解剖図:脊椎の両側に沿って走る深部の安定筋
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多裂筋で何が起きているか

多裂筋は使われなくなると急速に萎縮します。デスクワークで体幹をほとんど動かさない生活、一度の腰痛発作——それだけで、数日以内に萎縮が始まることが研究で確認されています。そして萎縮した多裂筋は、普通の運動や意識的な力の入れ方では回復しません。

多裂筋が機能不全に陥るまでの流れ
STEP 1
多裂筋が使われない・損傷を受ける
長時間のデスクワーク、前傾姿勢、腰痛発作が引き金
STEP 2
急速な萎縮(数日〜数週間で進行)
多裂筋は他の筋肉より萎縮が速い特性を持つ
STEP 3
椎骨「節単位の安定性」が失われる
各椎骨を固定する力がなくなり、微細な不安定性が生じる
STEP 4
表層の筋肉が代わりに過緊張 →トリガーポイントが形成
広背筋・脊柱起立筋が過剰に頑張り、慢性的に固まる
「慢性腰痛の多くは、椎間板でも骨でもなく、深部の小さな筋肉の機能不全から来ています。画像に映らないのは、そのためです。」
左:多裂筋が正常に機能している腰椎。右:多裂筋が萎縮し、表層筋が過緊張している状態
図:左=多裂筋が各椎骨を安定させている正常な状態。右=多裂筋が萎縮し、表層筋が代償的に過緊張してトリガーポイントを形成。
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鍼を刺すと、何が起きるか

表層筋のトリガーポイント(硬結)に鍼の先端が届くと、それまで滞っていた血流が回復し、固まっていた筋肉が柔らかくなります。

腰部の断面図:鍼が表層筋を通過して多裂筋のトリガーポイントまで到達する様子

さらに、多裂筋は神経との接続が他の筋肉と異なります。鍼の刺激は、萎縮によって眠っていた多裂筋への運動神経の活動を促し、機能を再起動するきっかけになります。

施術後に「腰が軽くなった」「体が安定した感じがする」と感じるのは、表層筋のこりが取れただけでなく、多裂筋の機能が戻り始めているためです。

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マッサージでは届かない理由

腰痛に悩む方がマッサージを受けてもすぐ戻るのは、深さの問題です。多裂筋は脊椎に直接付着する最深部の筋肉で、皮膚から4〜6cmの深さにあります。いかに熟練した施術者でも、指では到達できません。

左:マッサージの圧は表層止まり。右:鍼は深部の多裂筋まで届く断面比較図
図:左=マッサージの圧は表層筋(脊柱起立筋)止まり。右=鍼は4〜6cmの深さにある多裂筋まで直接届く。
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セルフケアでできること

多裂筋は「意識して動かす」ことが難しい筋肉です。しかし、バードドッグと呼ばれる運動では、対角線の動きを通じて多裂筋が自然に活性化されます。スポーツリハビリでも広く使われている、根拠のあるエクササイズです。

腰痛セルフケア:バードドッグ(四つん這いで右腕と左脚を水平に伸ばして5秒キープ)
バードドッグ:四つん這いになり、対角線の腕と脚を水平に伸ばして5秒キープ→戻す。左右各5回。多裂筋を選択的に活性化する。
✦ セルフケア 3つのポイント
  • バードドッグを毎日1セット(左右各5回)続ける——継続が多裂筋の再活性化につながる
  • 座るとき骨盤を立てる意識を持つ(仙骨をイスの背に当てない)——多裂筋が働きやすい姿勢
  • 腰が痛いときに安静にしすぎない——横になるほど多裂筋の萎縮が進む
参考文献
Panjabi MM. (1992). The stabilizing system of the spine. Part I. Function, dysfunction, adaptation, and enhancement. Journal of Spinal Disorders, 5(4), 383–389.
Hides JA, Stokes MJ, Saide M, et al. (1994). Evidence of lumbar multifidus muscle wasting ipsilateral to symptoms in patients with acute/subacute low back pain. Spine, 19(2), 165–172.

「マッサージを受けても翌日には戻る」「腰痛歴が長い」という方は
深部の多裂筋にアプローチする鍼灸が根本的な改善につながります。

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